彼の言葉に対する真摯な選び方、
語感の間のとり方に醸し出される色気、
瞳の奥に揺れる繊細な美しさを見つめる目、
そういったすべてが彼の文章を創造する才能を示唆していて、しかしわたしがそう語ると彼は笑うのです。
「それはきみがわしに自分を投影しているだけだろう」と。
そうなのかもしれない、しかしわたしはあなたの精神の襞に潜む無数の星から目が離せないのです、その暗闇は透明で深いのに、何処までも清らかだ。
除夜の鐘が鳴り響く新しい夜に、わたしの下であなたは微笑んで愛してると言う。
窓から入るきらきらした光に反射して、抱きしめた肌の産毛が部屋の暗さに浮かび上がる。
「2020年はどんな年にしたいか」という月並な話題は口付けの中に飲み込まれる。
最後に食べたチョコレートの苦さが舌を深く安堵させる。
我々はただ生きていて、明日も生きているのでしょう。
幸福を薪にして、心臓から鼓動と共に拡がる火を指先まで響かせて。
死んでもかまわない、という言葉で、新しい朝は始まった。
わたしたちはきっと、反対方向を向いて走ってゆく。
そのうちまったく別の道からお互いの影を見つけ、痕跡を追って同じ場所に辿りつくのでしょう。
異なる国の言葉で同じ詩を唄う外国人同士のように、わたしたちは好きなようにやるのに知らぬ間に手を繋いでいるのでしょう。
「明けましておめでとうございます」と彼は言った。
わたしはなんにも言わないまま、帯を解いた。
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